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エピソード4:トイレと虎

トイレと虎

特養 夢の箱

阪神タイガースが大好きなその男性は
私達と出会った時には
要介護5という、一番介護度の高い状態で
手足のむくみも強く、自分の唾液でむせてしまうほどの状態でした。

 

目をつむり、私達がかける言葉にも反応が薄く、いわゆる「寝たきり」のその男性に、
いったい私達に何が出来るというのかと弱気な考えがよぎってしまう、そんな状態でした。

 

 

夢の箱は、本人の力を使って生活してもらう生活リハビリを実践する為に、
毎月介護技術の定期指導に来ていただいている先生がいます。

 

その先生はいつも厳しく指導して下さるちょっと怖い先生ですが
どうやって介助すればよいのか
どうやって支援していけばよいのか
スタッフが悩んだり壁にぶつかったりした時には、その指導の時間を割いて、ケースカンファレンスを開いて、
私達がするべき支援や行動を一緒に考えて、方法論を教えて下さるのです。

 

 

そのカンファレンスを通して、私達は決めました。

 

大好きな甲子園に連れて行ってあげたい。

 

 

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そんな無謀とも思える目標に向かって、
先生に知恵を分けて頂きながら私達はその男性に元気になっていただくための生活リハビリを始めました。

 

男性を車椅子に移って頂く為には2人以上の人手を要したため、そのユニットのスタッフだけではなく、他のユニットや事務所、看護師も一緒にケアに当たりました。
たった1人の男性を、その人らしく過ごして頂く為に、夢の箱のスタッフ全員でチームを組みました。

 

 

男性は、トイレに座る力も衰えてしまっていたのでオムツを使っておられたのですが
1日2回、トイレに座るトレーニングを始めました。

 

2人の職員で介助してトイレに座って頂いて
便座から落ちないよう、トイレについているテーブル型の手すりをしっかり持って頂く姿勢を作るところから始めました。
不安定な便座の上で傾く身体を、スタッフは支え続けます。

 
数日は、トイレに座る事がやっとで、それだけで本人様はヘトヘト。
スタッフも汗だく。

 

これを毎日続けました。

 

 

初めてトイレで排泄が成功したのは1週間後。

 

これにはスタッフ全員が大喜び!
「やった~!ちゃんとトイレが出来ましたよ!」とスタッフが男性に声をかけると、
目をつむったままの男性が、ゆっくりと頷いてくれました。

 

 

この日を境に、トイレで成功する事が増えてきました。男性に「トイレでおしっこをする」感覚が戻ってきたのです。

 

1日2回のトイレは、3回になり、4回になり。
昼間はオムツを使わなくなっていきました。
便座の上で、しっかり座れるようになっていきました。

 

 

しかし、その方の回復は長くは続きませんでした。
元々弱ってしまっていた心臓が、
その方の元気を維持してくれる程の力を残していなかったのです。

 

 

最期の時が近づきます。

 

 

元気になった男性を甲子園に連れて行ってあげたかった。
スタッフは知恵を絞りました。
そして実行しました。

 

 

夢の箱を甲子園球場にしてしまおう!

 

 

夢の箱の1階の地域交流スペースで、
阪神タイガースVSロッテの交流戦の試合を大きなテレビ画面で皆んなで観戦するという企画をしたのです。
…もちろん、阪神タイガースがいっぱい打って勝つ試合を選んで(笑)

 

 

試合観戦に集まった入居者様30名以上!
皆様阪神タイガースのファンです。
手にはメガホンを持って頂いて試合を応援します!
一番の特等席は、阪神タイガースの法被を着用した男性に。

 

阪神ファンのスタッフが先導し、各選手の応援歌を歌いながらメガホンを叩きます。

 

なんということでしょう!
まるで甲子園球場の1塁側アルプスのようではありませんか!

 

  

『かっ飛ばせ~!○○○!!』

 

 

その男性にどれほどその時間を楽しんで頂けたのか、今となっては知る術はありません。

 

 

ただ言える事は、
その男性が夢の箱で過ごした3ヶ月という短くも長い毎日を私達が今もこうやって鮮明に思い出せるのは
その3ヶ月の1日1日を
しっかりと向き合い続けたからだという事です。

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